軒先の風鈴 short story
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09 , 17
The funeral march 歓楽の葬送行進曲



どうでもいい話を一つ。

彼女は銀髪である。

彼女は中肉中背である。

彼女の好きな色は青である。

彼女の好きな花はスズランである。

彼女の好きな人はカーリエ・ベルルモンである。

彼女の仕事はとにかく巨大な刃物を振り回すことである。

彼女の名はアルテミス=セオリーである。


完全な廃墟と化した歓楽街は凄まじい血臭の中に閉ざされていた。
つい半刻前までの輝かしいネオンは今や単なる懐中電灯代わりへと成り果て、
ひしゃげた街頭の柱はてっ辺に電灯の傘だけをぶら下げている。
むき出しのフィラメントに集った蟲どもは即座に焼け死ぬ。
滑稽なものだ。

彼女、アルテミス──つまりその愛称で言うところのセオは、
丁度懐へ飛び込んできた無骨な甲冑を両断した。
ちなみに彼女の愛刀の名は秋月という。
もう一つちなみに、敵がしっかりと着込んでいるのは巷で噂の対人龍殻である。
ミシェル・ハーマンというイカレた技術者が作った。
無論、普通の人間では両断などできない。

死の瞬間を視る女、“狩り手”、アルテミス=セオリー。

ゆらり、と幽鬼のように、前方へ現れた龍殻。
額に染め抜かれた紅十字。

セオは走った。
視る。
絶対100%の可能性の中で限りなく0に近い神の悪戯を、
青い瞳の内部に宿してセオは走る。

あの禍々しい甲冑を断つ可能性、それに繋がるプロセスを慎重に踏みながら、
彼女は龍殻へ肉薄した。

しかし龍殻は半身だけをずらして、重い斬撃を交わす。
足元の瓦礫を踏み抜き、僅かに関節を軋ませて、鋼に包まれた足を振り上げる。
体ごとの一撃で愛刀とともに地面へしゃがみこんでしまった彼女には、
それが見えない。
それでもセオは収縮させた体中のバネを使って、可能な限り前方へ体を投げ出した。
半秒遅れて、その脚を掠めるように、鋼が地面を抉る。
散らばったコンクリートが破砕され、セオに飛来する。
彼女は眼球を守って目蓋を下ろしつつも、気配の方向へ刀を構えた。

「                    」

ぬるり、と顎へ伝ったものは何だろう。血か。
首を失った龍殻はぐらりと揺れて、緩慢に倒れた。
死へのプロセスは完全に踏んでいた。

けれど彼女はその龍殻を倒した時から、
死の瞬間を視る女、“隻腕の狩り手”、アルテミス=セオリーになった。



貴方、わたしと会った時にはもう死んでたわ
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